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LC-SCRUM-Asia(エルシー・スクラム・アジア)メッセージ

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“遺伝子パネル検査を迅速化し
患者さんへの情報提供も推進”

LC-SCRUM-Asia 研究代表者
東病院 呼吸器内科長
後藤 功一

LC-SCRUM-Asiaとは

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LC-SCRUM-Asiaは、肺がんで薬物療法を受ける患者さんを対象に、がんの原因となる遺伝子変化(ドライバー遺伝子)を調べるゲノム医療のプロジェクトです。LCは肺がんの英語名Lung Cancerの略語です。日本とアジアの医療者がスクラムを組んで、肺がんの原因となる希少な遺伝子変化を見つけ出し、さらなる個別化治療の確立への貢献を目指しています。

本プロジェクトの前身は、日本で発見された肺がんのドライバー遺伝子であるRET融合遺伝子の治療薬の開発を目指して、2013年に発足したLC-SCRUM-Japan(エルシー・スクラム・ジャパン)です。RET融合遺伝子を有する患者さんは、非小細胞肺がんの約1~2%と非常に少ないのですが、当時は、このような希少な遺伝子変化を調べる体制が整っていませんでした。そこで、全国約200病院と連携し、希少な遺伝子変化を有する患者さんを見つけ出すために、次世代シークエンサー(NGS)法を用いた遺伝子スクリーニングの基盤を構築しました。2019年3月から台湾の6病院が参加し基盤がアジアへ広がったため、プロジェクト名をLC-SCRUM-Asiaに変更しました。今後、タイとマレーシア、そして、ベトナム、シンガポールの病院もこの遺伝子スクリーニングへ参加する予定です。

LC-SCRUM-Asiaのこれまでの成果

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本プロジェクトでは、これまで1万3000人以上の肺がん患者さんが遺伝子検査を受けました。200以上の病院とのネットワークを構築し、遺伝子検査を行うことで、肺がんの中でも希少なドライバー遺伝子のある患者さんを効率的に見つけ出し、その治療薬の開発がスピード感を持って進められています。

本プロジェクトは、肺がんの原因となる遺伝子変化を短時間で効率よく診断するために最適な遺伝子検査キットの実用化にも貢献してきました。高感度のマルチPCRパネル「Amoy 9-in-1 assay(アモイ・ナイン・イン・ワン・アッセイ)」の開発は、LC-SCRUM-Asia第3期の成果の一つです。近年、NGS法を用いた遺伝子パネル検査の導入で、肺がんの原因となるたくさんの遺伝子変化を一度に調べることが可能になりましたが、結果が出るまでに2~3週間かかるのが課題でした。新たなマルチPCRパネルでは、新型コロナウイルス感染症の検査にも活用されているPCR法によって、治療に直結する9つの遺伝子変化を約3日間で明らかにすることができます。

LC-SCRUM-Asia第4期の新たな取り組み

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第4期のプロジェクトでは、マルチPCRパネルに引き続き、短期間で遺伝子検査の結果が判明する新たなNGS遺伝子パネル検査(Genexus OPA)の開発を進めます。前述のように、NGS法による遺伝子検査は結果が判明するまでに時間がかかるのが大きな課題ですが、この高速NGS遺伝子パネル検査は、第3期の後半から既にLC-SCRUM-Asiaへ導入されており、約4日間で50遺伝子の検査結果が判明することが分かっています。進行肺がんの初回の薬物療法から、個別化医療が選択できるようにするのがねらいです。

もう一つ、2000種類以上の遺伝子変化を調べることができる遺伝子パネル検査(Amoy Master Panel)の開発も研究用に進めて行きます。より多くの遺伝子を調べることで、例えば、現在の肺がん治療で一般的に用いられている免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するバイオマーカーの特定を目指しており、多くの研究に活用できると考えています。

参加する患者さんのメリットとLC-SCRUM-Support

本プロジェクトに参加する患者さんのメリットは、精度の高い遺伝子パネル検査が無料で受けられることです。特に、腺がんというタイプの肺がんでは、約7割の患者さんにがんの原因となる遺伝子変化が存在することが分かっています。遺伝子パネル検査によって治療につながる遺伝子変化が検出されれば、最適な薬を選ぶことにつながる可能性があります。

これまでは、遺伝子パネル検査の結果については担当医にのみ報告していましたが、第4期では、検出された遺伝子変化と関連する治験の情報を患者さんにもメールでお知らせするという新しい試み(LC-SCRUM-Support)を開始します。薬物治療を受ける患者さんが自らの病状を理解し、治療を納得して受けるためには、自分のがんの原因となっている遺伝子変化について充分に理解することが重要です。LC-SCRUM-Supportを活用して、臨床試験の情報を収集し、どのような治療を受けるのが最適と考えられるか、担当医とよく相談して、前向きに治療に取り組んで欲しいと思います。

LC-SCRUM-Asiaのネットワークを生かし、有効で安全な肺がんの新しい治療薬の開発を進めていくことが、我々の重要な使命です。今後も、肺がんの治療薬と診断薬を世界のどこよりも早く日本の患者さんへ、そして、アジアの患者さんへ届けられるように努力していきたいと思います。